アレキサンダーファン
2017年07月掲載
第70回 アレキファン的「ホルンの“ホ”」
藤田麻理絵ホルンリサイタル 〜ナチュラルホルン&フォルテピアノ、ホルン&ピアノの響き〜


藤田麻理絵ホルンリサイタル

※写真は1枚を除いてリハーサル中の様子です

 新日本フィルハーモニー交響楽団のホルン奏者であり、ホルンアンサンブル“ヴィーナス”やアレキサンダーホルン アンサンブルジャパンのメンバーである藤田麻理絵さんが2017年5月31日に、初のリサイタルを開催した。

 場所は東京世田谷区の住宅街の中にあるカルラホール(Karura Hall)。まるで個人宅の地下に入っていくようなアットホームな雰囲気を持つ、座席数70(当日は満席)のホールであり、気分はまさにサロンコンサート。普通のピアノとともに、1830年ウィーン製のフォルテピアノ(ドイツ語でハンマークラヴィーア)が用意されているのが大きな特徴である。

 そして演奏会のタイトル通り、プログラム前半はこのフォルテピアノ(Felix Gross製)とともに藤田さんはナチュラルホルンを吹き、後半はアレキサンダー103に持ち替えてモダンピアノ(スタインウェイ)との演奏を披露した。



前半はナチュラルホルンとフォルテピアノで18世紀〜19世紀初期の作品を

藤田麻理絵ホルンリサイタル

 1曲目は19世紀の作曲家イグナーツ・モシェレスの《序奏とロンド・エコセーズ》。ナチュラルホルンもフォルテピアノもこの時代に使われていた楽器であり、当然のように相性は抜群だ。どちらも音量は出ないけれど、その繊細な音色はこのホールによく合っていた。

 2015〜16年にスイスのバーゼル音楽院に留学したときにナチュラルホルンのレッスンを受け、帰国後も積極的にナチュラルホルンに取り組んでいる藤田さん、ハンドストップ奏法も手の内に入っている印象で、その演奏は安定していた。楽器の音色とも相まって、とても軽やかで繊細な音楽を奏でていた。


 2曲目はフォルテピアノの独奏でモーツァルトの《フランスの歌「美しいフランソワーズ」による12の変奏曲》。ピアニストの羽賀美歩さんは東京藝大の大学院でフォルテピアノを専攻し、世界各地のフォルテピアノコンクールでの入賞歴もあるだけに、(現代のピアノに比べれば)音量も表現の幅も限られるこの楽器だからこそ、ダイレクトに奏者の表現を伝えてきた。聴衆の多くはホルンが目的だったと想像できるが、そんな聴き手の心も捉えて離さない演奏だった。

藤田麻理絵ホルンリサイタル

 前半最後は、ニコラウス・フォン・クルフト(1779-1818)というウィーンの作曲家による晩年の作品となる《ホルンソナタ》。ナチュラルホルンのために書かれた曲でありながら、速いパッセージで遠慮なく半音階を使っており、ヴィルトゥオーソ的な聴き応えもある。中間楽章では短調のメランコリックなメロディを吹くのだが、必然的にストップの音が増えることで、より沈んだ印象をもたらしていたのが印象的だった。藤田さんの演奏は、大げさな表情を付けることはないが、その分内面的な感情が伝わって来た。



藤田麻理絵ホルンリサイタル

アレキサンダーホルンとモダンピアノで19世紀末〜20世紀の作品を演奏

 休憩中にフォルテピアノとモダンピアノを入れ替え、後半は藤田さんもいつものアレキサンダー103に持ち替えて登場した。1曲目はホルンの無伴奏ソロでベルンハルト・クロルの《ラウダツィオ》。派手なところのない骨太な演奏はナチュラルホルンでも共通していたのだが、やはりブリリアントなアレキサンダーの音の方が聴いていて安心できるのは、慣れもあるだろうか。もちろん曲調が一気に現代的になったこともあるが、藤田さんの演奏も感情を吐き出すようなものに変化した。しかし強く吹く場面でも決して硬かったり荒かったりしないのは、一貫していた。


藤田麻理絵ホルンリサイタル

 続くグラズノフの《夢想》はアレキサンダーホルンの特徴でもある伸びやかな演奏で、バルブホルンによって手に入れた均一な音色を出せる喜びを感じたような気もした。ピアノ独奏のショパン《夜想曲第8番》もやはり、モダンピアノの豊かな響きと表現力を存分に生かした演奏だった。

 ラストはベルギーの女性作曲家ジェーン・ヴィネリの《ホルンソナタ》。1942年の作だが伝統的なソナタ形式を採っていて、決して有名ではないが、現代的すぎない曲調に様々な表情が現れる魅力的な作品であった。大げさな表現にはせずに曲の変化をうまく引き出し、太く柔らかでありながらしっかりとした芯のあるホルンサウンドがその音楽を引き立てていた。


 アンコールに応えて、マラン・マレの《ル・バスク》を演奏。今日一番の躍動感のある演奏で、最後の音に駆け上がったあと、「ほっ」と息を吐いて笑顔になったのがとても印象的だった。

藤田麻理絵ホルンリサイタル


文:アレキサンダーファン編集部 今泉晃一


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