アレキサンダーファン
2019年11月掲載
第76回 アレキファン的「ホルンの“ホ”」
アレキサンダーホルンアンサンブルジャパン 第10回定期演奏会

 アレキサンダーホルンアンサンブルジャパン(以下、アレキジャパン)は、その名の通りわれらがアレキサンダー社のホルンを愛する奏者によるアンサンブルであり、1999年に東京都内のオーケストラに所属するプレイヤー10人により結成された。以来メンバーの多くが入れ替わりつつも十重奏というスタイルを貫き、2019年10月7日、東京文化会館小ホールにて第10回定期演奏会を行なった。メンバーには新進気鋭の若手奏者も増え、今回は神奈川フィルハーモニー管弦楽団首席の坂東裕香氏が初出演となった。なお、プログラムにはOB・OGからのメッセージが寄せられていたが、錚々たるメンバーが並んでいるところが、このアンサンブルの歴史を改めて感じさせた。



ターナーの十重奏を世界初演!!

(1stから順に)金子/上間/日橋/有馬/坂東/藤田/熊井/鈴木/上里/伴野

 ところで、ご存知のようにホルン十重奏のために書かれた曲は非常に限られているため、これまでもオリジナルアレンジを数多く披露し、そのたびにアレキジャパンでなければ不可能に思えるテクニックと、そして深い音楽性を聴かせ聴衆を感嘆させてきた(それはオリジナルアレンジに限らないのだけれど)。
 そして今回は第10回ということもあって、かのケリー・ターナーによる新曲(委嘱作)を世界初演! ターナーはかつてのアメリカンホルンカルテットのメンバーであると同時に、ホルンアンサンブルに欠かせない曲を数多く作曲。アレキジャパンは過去にも八重奏曲《ダブリンの幽霊》を委嘱(2001年世界初演)しているが、その他にもこれまで三重奏《シャコンヌ》、四重奏《BARCSのためのファンファーレ》やホルン四重奏曲第4番、五重奏《テトゥアンのカスバ》など多く取り上げてきた。
 そこに《10本のホルンのための序曲『APOLLO』》が加わった。ターナー本人の解説によればタイトルはギリシャ神話の芸能・芸術の神アポローンから名付けたとされているが、ひょっとするとアポロ11号による人類初の月面着陸から50年ということも念頭にあったのではないだろうか。そう感じさせるような、栄光と輝きに満ちた曲調で始まり、パートをまたがるような広い音域を持つ、ターナーらしい躍動感のあるメロディが展開する。中間部は何かを成し遂げたような充実感を思い起こさせるもので、その後再び主部のヒロイックなメロディが戻ると、畳みかけるようにエンディングに向かう。アレキサンダーによる、ときに輝かしく、ときに柔らかな、まさに“ホルンらしい”サウンドが、この曲に非常にマッチしていた。



有馬/金子/上里/熊井

 アレキジャパンは十重奏という編成を取りつつも、演奏会では大小様々な編成によるアンサンブルを披露し、聴き手を飽きさせない。2曲目に演奏されたのは四重奏であるボブ佐久間《アテンプト》。東京ホルンクヮルテットの委嘱による1993年に書かれたこの曲は演奏される機会も多く、すでにホルン四重奏のレパートリーとして定着した感もあるが、あらためて聴くとかなり先鋭な印象がある。明確なアーティキュレーションと密度感のある響きが、その印象をさらに強く感じさせる。情感豊かなメロディとリズミックな部分の対比も見事だった。



坂東/藤田/鈴木

 個人的に最も感銘を受けたのが、レイハ(ライヒャ)のトリオだった。ホルントリオの定番中の定番とも言える曲だが、こうした演奏会で奏される機会は意外に少ない。女性奏者3人による今回の演奏は、柔らかな響きが聴き手を優しく包むような感覚で、まろやかに溶け合ったハーモニーや、速いパッセージもなめらかなメロディとして息もぴったりに吹く様など、3人で一緒に曲を感じていることが強く伝わってきた。
 そして、強奏時にはブラッシーで荒々しい領域にも足を踏み入れるアレキサンダーの音だが、こんなふうに終始しっとりとした(その中での振り幅は大きい)表現もできるという奥深さを備えているということを再確認した次第。



有馬/日橋/上間/坂東/金子/藤田/熊井/上里/鈴木/伴野

 さて、アレキジャパンは「もっともホルンらしい響きがする」という理由から、ワーグナーを常に定期演奏会で取り上げてきた。《ラインの黄金》《神々の黄昏》《ローエングリン》《パルジファル》《タンホイザー》《さまよえるオランダ人》《トリスタンとイゾルデ》など、比較的原曲に忠実なアレンジからパラフレーズ的なものまで様々であるが、今回はついに、と言ってもいいだろう、《ニュルンベルクのマイスタージンガー》より第1幕への前奏曲である。
 ホルンの作・編曲でお馴染みの小林健太郎氏の編曲は、ワーグナーのスコアに非常に忠実なもの。幾多のライトモティーフが複雑に絡み合う様をホルンだけで表現することになるわけだが、むしろ原曲以上に曲の構造がわかりやすかったと感じたのは筆者だけだろうか。それだけ、アレキジャパンの各々のパートの再現力が素晴らしかったわけだが、テクニック的なことだけでなく、自分が演奏しているパートの役割を理解した、オケマンならではのシンフォニックな感覚があるからこそ、全体の音楽がきちんと「ワーグナーしていた」のだと感じた。ひとつだけ言わせていただくとすれば、(原曲では)金管によるマイスターたちの行進のテーマの裏で動くベースラインが、これほど明快に、そして格好良く聴こえた演奏は初めてだった!



〈7つのヴェールの踊り〉の熱量で客席を圧倒

坂東/有馬/金子/熊井/鈴木/上里

 後半は、これも六重奏のレパートリーとして取り上げられることの多い、外山雄三の《パッサ・テンポ(なつかしい昔)》から。まず感じたのはベルトーンの美しさ。これも、アレキサンダーを使うことで、全員が同じ方向性の音色を持っているからだろう。そして曲名の通りに、郷愁にかられるような曲調が続くが、あるときは熱っぽく、あるときは夢のように、またあるときは無邪気にと、曲ごとに表情が変化していく。聴き手を現実に戻らせる隙を与えないのは、メロディの歌いまわしはもちろんのこと、移り行くハーモニーのどこにも隙がないことが大きかったように思う。



上間/藤田/日橋/伴野

 実は、ほとんど知られていないような現代の四重奏曲を毎回取り上げている(しかも、ほぼ同じメンバーによる)のだが、今回はアメリカのバークリー音楽大学教授であり、ホルン奏者でもあるデニス・ルクレアのホルン四重奏曲を演奏。現代作品といっても決して難解ではなく、4つの音から成る動機が、〈ファンファーレ〉〈フーガ〉〈チェイス〉とそれぞれ違う形で発展していくのが面白い。そして、その面白さをより明快な形で伝えてくれる演奏でもあった。特に終曲の〈チェイス〉は共通の動機を含む、うごめくような音型がハーモニーを作っていく。1人ずつは何を吹いているか判別できないほどで、全体で1つのものを作っていくのだが、まったくバラけないのが見事。全体に不思議な魅力を持つ曲を、最後まで緊張感を保って演奏し、聴衆を引き込んだ。



日橋/金子/上間/有馬/坂東/熊井/鈴木/藤田/上里/伴野

 最後は再び小林健太郎氏の編曲による十重奏で、R.シュトラウスの楽劇《サロメ》より〈7つのヴェールの踊り〉。小林氏曰く「(原曲にある音は)全部書いてあります」というそうとう無茶な譜面を、しっかりと“音楽”にしてしまうのがアレキサンダーホルンアンサンブルジャパンという集団なのだ。楽器のベルやミュートを叩いて打楽器も表現しつつ、同じ楽器の音なのに弦、木管、金管それぞれのパートをその楽器らしく聴かせていく。難易度の高いパッセージも超ハイトーンも含め、様々な音型が折り重なって妖艶なダンスを形作るという、原曲の持つミステリアスな雰囲気を醸し出す。「この、すべてがホルンという音色でぎゅうぎゅうに詰め込まれた感じは、ひょっとすると原曲以上の効果を上げているのでは?」とさえ感じられることもあった。そしてラストに向かっては物凄い熱量で客席を圧倒した。



 アンコールを受けて再登場したメンバーたちは、来場していたアレキサンダー社社長のゲオルク・フィリップ・アレキサンダー氏を紹介し、全員でジョン・ウィリアムスの《オリンピック・ファンファーレ&テーマ》を華々しく演奏。そしてターナーの《アポロ》の後半を再演して幕を閉じたのだった。



アレキサンダーホルンアンサンブルジャパン
有馬純晴(東京都交響楽団)
上里友二(読売日本交響楽団)
鈴木優(東京都交響楽団)
金子典樹(新日本フィルハーモニー交響楽団)
上間善之(東京交響楽団)
藤田麻理絵(新日本フィルハーモニー交響楽団)
伴野涼介(読売日本交響楽団)
熊井優(神奈川フィルハーモニー管弦楽団)
日橋辰朗(読売日本交響楽団)
坂東裕香(神奈川フィルハーモニー交響楽団)


文:アレキサンダーファン編集部 今泉晃一


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