アレキサンダーファン
2017年08月掲載
第71回 アレキファン的「ホルンの“ホ”」
アレキサンダーホルンアンサンブルジャパン 第9回定期演奏会


 アレキサンダーを愛用するホルン奏者によるアレキサンダーホルンアンサンブルジャパン(以下、アレキジャパン)が、第9回となる定期演奏会を開催した。1月に行なわれた最初の合わせをレポートしてからもう半年。時の経つのは早いものです……。などという間にも、アレキジャパンのメンバーはスケジュールをやりくりして練習を繰り返してきたことがわかる演奏となった。
 1999年に結成されて同年に第1回演奏会を開いたときからメンバーは少しずつ入れ替わり、創設時から在籍しているのは有馬さんと金子さんのみになってしまった。にも関わらず、アンサンブルとして、18年という年月を経ただけの熟成と進化が見られたことが、今回の演奏会を聴いて強く思ったことだった。「アレキサンダーホルンを愛用している」ことはもちろん、「首都圏(関東圏)のオーケストラプレーヤーの集まり」ということも一貫しているから、そのことがベースとなって、目指すサウンドや音楽の方向性がぶれていないということなのではないだろうか。
アレキサンダーホルンアンサンブルジャパン 第9回定期演奏会

 メンバー数も多少の増減はあるにせよ、10名を基本としていることも変わらない。これは全員で合奏する曲の内容を考えてのことだというが、ホルンアンサンブルで十重奏というのはあまり一般的ではないから、オリジナルアレンジが増えることも必然だろう。今回も新アレンジの十重奏が入っているが、これがホルンアンサンブルのレパートリーを広げる助けになるのではないだろうか(ただし、演奏にはかなりのテクニックを要する)。
 全員での十重奏を軸として、今回の演奏会でも二重奏、四重奏、六重奏といった様々な編成と、古典から現代まで幅広いレパートリーによるプログラムが組まれていて、聴衆を飽きさせなかった。



出色の二重奏、熟成の四重奏、そして定番のワーグナー

アレキサンダーホルンアンサンブルジャパン 第9回定期演奏会

 さて、開幕は10人によるジョン・ウィリアムズ《ロサンゼルスオリンピック・ファンファーレとテーマ》(編曲は小林健太郎氏)。開幕にふさわしい、ブリリアントなサウンドによるファンファーレで始まったが、いきなりのアレキサンダートーン全開。パワフルだが決して乱暴ではなく、ときにブラッシーだが汚くない。響きの色が統一されているために「かたまり感」が強く、だからこそ強いエネルギーを持った音を“浴びる”快感がある。中間部の柔らかく温かいメロディでも勢いを失うことなく、鋭く速いファンファーレのパッセージが重なり、一気にクライマックスに到達する。いつも感嘆することだが、低音のの支えがものすごい。全員がオーケストラプレーヤーだが、オケの中ではなかなか聴けないパワフルな低音を聴くと、「これぞホルンアンサンブルの醍醐味」と感じる。


アレキサンダーホルンアンサンブルジャパン 第9回定期演奏会

 続くはM地氏&熊井氏によるデュオでロッシーニの《チェロとコントラバスのための二重奏》より。アレキジャパンの演奏会初登場の若手2人にデュオを任せるというのは、信用しているのか、それともある種の試練なのか……。しかしこれがまた名演だった。原曲がチェロとコントラバスということで、冒頭のM地氏による豊かな中域のメロディが美しい。それを、コントラバスパートの熊井氏が抜群の安定感で支える。実は下のパートは音域も広く、ホルンの苦手とする速いアルペジオなども頻出するという難しい譜面なのだ。直前の華やかな十重奏から人数はぐっと減ったが、ダイナミクスの幅も大きく、人数が少ない分演奏者の表現がダイレクトに伝わってきて、まったく物足りない感じはなかった。2人で速いパッセージを吹きながらもそのひとつひとつの音がすべてきれいにハモっていた部分など、ヴィルトゥオージティも堪能できた。演奏が終わった瞬間の、2人の満足そうな笑顔が全てを物語っていたように思う。


アレキサンダーホルンアンサンブルジャパン 第9回定期演奏会

 W.シュミット《4本のホルンのための変奏曲》は20世紀の作品で、実は第8回定期演奏会でやはり現代曲のリディル《MEYENMUSICK 16世紀ブレスラウの5月の歌の主題による4本のホルンのための変奏曲》を演奏したときと同じメンバー(上間/日橋/藤田/伴野)。前回も非常に充実したアンサンブルだっただけに、今回のメンバーの割り振り&曲決めのときも「現代曲カルテット再び!」と気勢を上げていたのが印象的だったが、複雑な曲を、まさに常設のホルンカルテットのような緊密なアンサンブルを聴かせてくれた。曲のしかけをわかりやすく見せてくれるような演奏で、現代的な和音が豊かに響いていたのが特徴的だった。


 アレキジャパンはこれまでも多くの演奏会でワーグナーを取り上げてきたが、今回は2007年の第6回定期演奏会で演奏し、同年リリースされたCD『カーニバル』にも収録されている《タンホイザー》〜ハイライトを再演した。当時とはメンバーも変わっていることもあるし、CDで聴いていた人も生演奏はまた新鮮に聴けるだろう。何より「曲が良い」というのが、再び取り上げた理由だそうだ。
アレキサンダーホルンアンサンブルジャパン 第9回定期演奏会

 ステージ上には4人ずつ左右に分かれて並び、ホルンとその他だったり、管楽器と弦楽器だったり、メロディと伴奏だったりと、それぞれが別の役割を持たされている。同じホルンという楽器の音ではあっても、役割によって吹き方や音色を変化させているわけで、グループ間の対比がとても面白かった。特に狩りのシーンでは舞台裏のバンダ2人も加わって3グループでの掛け合いとなり、立体的な音響を存分に楽しむこともできた。そして、やはりワーグナーとホルン(特にアレキサンダーホルン)はとても合うこと、そして、素晴らしいホルンのハーモニーを満喫しながらも、演奏される音楽は原曲(オーケストラ)に引けを取らない、紛れもないワーグナーだったことを実感した。




アレキサンダーホルンアンサンブルジャパン 第9回定期演奏会
アレキサンダーホルンアンサンブルジャパン 第9回定期演奏会
メインは新アレンジによるベルリオーズ《幻想交響曲》

 後半はドープラの《グランドゼクステット》から。ソロ2本+カルテットという構成の六重奏で、ソロを金子氏と上間氏、カルテットのトップ(3rd)をM地氏が務めた。もともとナチュラルホルンのための曲で、それでも自在な和音を作れるようにパートごとに違う調性で書かれている。1stなどはC altoの譜面のため、実音Gまで容赦なく出てくるが、107を持った金子氏はまるでナチュラルホルンのように軽々と吹く。もちろん見どころはハイトーンだけでなく、ソロ2人がハモるメロディが美しく、巧妙な掛け合いも聴かせる。一方トゥッティを率いるM地氏が全体をリードして音楽を前に進めつつ、4人が安定感のあるハーモニーで見事に支えたのだった。

 グロスの《4本のホルンのための4つ小品》は20世紀の作品であるが、ときに郷愁あふれる、ときにうきうきと楽しい曲調で親しみやすい。トップを吹く有馬氏が、決して派手ではないが聴く人の心を揺さぶるような“歌”で、聴かせた。


 さて、メインは小林健太郎氏による新アレンジでベルリオーズ《幻想交響曲》より《ホルン10本のための恋愛幻想》。ベルリオーズが恋した女優のハリエット・スミスソンを表すテーマが原曲でも楽章に関わらず何度も登場するが、作曲者自身のエピソードから小林氏は「恋愛の曲」という印象を受け、前述の想い人を表すテーマ(固定観念)を冒頭にもソロで付け加えたという。曲は第1楽章冒頭→第2楽章のワルツ、第4楽章の断頭台への行進、そして第5楽章の「怒りの日」から魔女のロンドを経てクライマックスへ向かう。弦楽器が弓の背(木の部分)で弾くコル・レーニョを、ベルを爪で叩くことで表現するのが面白い。そして、各部分をつなぐように(ある意味唐突に)例の固定観念が現れる。
アレキサンダーホルンアンサンブルジャパン 第9回定期演奏会

 編曲者が「私が譜面に書いた以上に、演奏者のみなさんが(曲を)ふくらませてくれた」と言うように、オーケストラを再現しつつもより熱量が高く、「胸をかきむしるような心の内に秘めた熱情」というものをより感じさせてくれた。それと同時に、オーケストラでは埋もれてしまうようなパートも聴こえてくることで、「近代管弦楽法の父」とも呼ばれたベルリオーズの、工夫を凝らしたオーケストレーションがよりはっきりと見て取れるという面白さも感じられた。




シュテファン・ドール氏のサプライズ出演も!

アレキサンダーホルンアンサンブルジャパン 第9回定期演奏会

 さて、待望のアンコールだが、なぜかステージの端に譜面台が1本立ててある。と思ったら、曲が始まってからベルリン・フィル首席のシュテファン・ドール氏(もちろんアレキサンダー103ユーザー)がサプライズで登場し、お得意の《I am so Ronery》を熱唱(もちろん楽器で)。これに客席は湧いた。2曲目のアンコールはドール氏もトップを吹き、《スターウォーズ組曲》から〈王座の間とエンド・タイトル〉で盛り上がった。

アレキサンダーホルンアンサンブルジャパン 第9回定期演奏会

 実を言うと事前にドール氏参加の情報をつかんでいた筆者は、リハーサル直後に楽屋を直撃した。ちょうど、翌々日の東京都交響楽団をはじめとして日本中のオーケストラと共演するために来日していた彼はアレキジャパンの演奏会にも招待されたのだが、「それなら一緒に吹きたい」という希望により、このサプライズが実現したという。
 「アレキジャパンとはサラ(ウィリス)とともに過去にも共演していますし(2008年特別演奏会)、同じ楽器を使っているということもあって仲間意識を持っています。ベルリン・フィルでも全員がアレキサンダーを使っていますが、所属するオーケストラも違いますからやはり出てくる音は違います。ただ、基本となるサウンドは同じですし、音程を合わせるのも楽です。一緒に演奏するのはとても楽しいことですよ」
 なお、ドール氏からは「僕は今ここにはいないことになっているからね。誰にも言ってはいけないよ!」と念押しされたが、すでにサプライズは成功したのだから、ここに書くことをお許しください。





アレキサンダーホルンアンサンブルジャパン

  有馬純晴 東京都交響楽団
  上里友二 群馬交響楽団
  上間善之 東京交響楽団
  金子典樹 新日本フィルハーモニー交響楽団
  鈴木優 東京交響楽団
  伴野涼介 読売日本交響楽団
  日橋辰朗 読売日本交響楽団
  藤田麻理絵  新日本フィルハーモニー交響楽団
  <賛助出演>
  熊井優 神奈川フィルハーモニー管弦楽団
  M地宗 群馬交響楽団



文:アレキサンダーファン編集部 今泉晃一


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