アレキサンダーファン
2015年4月掲載
第62回 アレキファン的「ホルンの“ホ”」
シュテファン・ドール ホルン・リサイタル


シュテファン・ドール氏

 アレキサンダーファンを集めて行なわれたミニクリニック&懇親会から約1週間後の2014年11月21日、シュテファン・ドール氏(ベルリンフィル首席ホルン奏者。愛器はもちろんアレキサンダー103)のソロリサイタルが東京・銀座のヤマハホールにて開催された。ピアノはベルリン在住の沢野智子氏(彼女は、若手ホルン奏者プジェミスル・ヴォイタの大学時代の先生でもある!)。ぴったり息の合ったアンサンブルを聴かせてくれた。

 この日のプログラムのテーマは“ドイツ・ロマン派”。「19世紀半ばから20世紀初頭にかけての約50〜60年の間にこれだけスタイルの異なるホルン曲が書かれたことが面白い」とはドール本人の言葉だ。

 1曲目はホルン奏者であったJ.R.レヴィの《シューベルトの主題によるディヴェルティメント》。プログラムによれば、レヴィはシューマンの《コンツェルトシュトゥック》の内輪での初演をしたり、かの《アダージョとアレグロ》もレヴィを念頭に置いて書かれたという説もあるらしい。この《ディヴェルティメント》はシューベルトによるメロディが次々に現れる「歌心あふれる」曲。沢野のピアノが雰囲気を作った上で、甘いサウンドながらとても内面的なドールのホルンが歌い上げる。まさにテノールの歌のように、レガートでもノンレガートでも、音と音の段差がなく、「レバーで音を変えている」感じがまったくない。そういえば、有名な《セレナード》の旋律を、ドールはリハの合間にずっと吹いていた。


シュテファン・ドール氏



 マックス・レーガーにも影響を受けたというJ.ハースによるホルンソナタは、まさにドイツ・ロマン派の終焉を感じさせるもの。第1楽章は15年前に生まれているR.シュトラウスも彷彿とさせるが、軽やかな音の跳躍を要求される一方でたっぷりとした長いフレーズが現れ、ドールはかなりブラッシーな音色まで使ったダイナミックな表現をしていた。第2楽章は冒頭からピアノとホルンが互いにルバートをかけ合いながらレシタティーボ風に朗々と歌う。あるポイントで音楽が動き出し、あるところで歩みを止めてファンファーレ風に吹き鳴らし、再び流れ出す。その静と動の有機的なつながりが見事。終楽章は軽妙なフレーズから一転、人の心に訴えるようなレガートのたっぷりとした歌が現れる。ドールの演奏はその2つを自在に行き来する振りの大きなものだった。あと、ちょっとだけレアな豊かな低音も魅力的。


 F.ティエリオも(これまでの2人と同じく)名前を聞いたことがない人が多いのではないだろうか。自身はチェロ奏者だがブラームスと親交があり、我々がホルンソナタで知っているラインベルガーの教えも受けているという(「ラインベルガーのソナタも、ぜひ演奏したい」とドールは話していた)。明るくシンプルなメロディを、まるでシングルホルンでも吹くように軽やかな音色で聴かせる。pでもただ音が弱い、小さいだけでなく豊かに表現していたのが印象的。ゆったりとした第2楽章はいっそう柔らかなアタックと音色を主体としていて、楽章全体が夢の中にあるようだった。


シュテファン・ドール氏

 最後は読売日本交響楽団のコンサートマスターでもある長原幸太氏を加えてブラームスの《ヴァイオリンとピアノ、ホルンのための三重奏曲》。長原のヴァイオリンは弦よりも空気を震わせるような音を持っていて、つまり管楽器的であり、ホルンとの相性もとても良い。ドールもしなやかなアタックと音色で、音型も自然にヴァイオリンに寄せていたようだった。この曲は音量のバランス取りが難しいことがあるが、「音量」ではなく「音質」のバランスが自然であればホルンとヴァイオリンがきちんとハモって響くように作られているということがわかる。実際、fの音量に関してドールは遠慮していなかった。
 この曲、通称は《ホルントリオ》だが、実はピアノの難易度が飛び抜けて高くピアニストの沢野氏も終演後に苦笑していたほどだが、ピアノがスケールの大きなしっかりとした枠組みを作っていて、3人の演奏がときにオーケストラを聴いているような気になることもあった。一方で極めて室内楽的なところも(当然だが)あって、特に第2楽章のトリオでホルンの下にヴァイオリンがハモるところは聴いていてとろけそうになった。第4楽章は3人による丁々発止が良い意味でスリリングに音楽をぐいぐいと進め、まるで映画のクライマックスのようにのめり込んでしまう熱演だった。曲が終わった瞬間に演奏者全員から思わず笑みがこぼれたのも印象に残った。


 アンコールはトリオでケクランの《4つの小品》よりまず第2楽章を演奏し、拍手がやまなかったため続いて第1楽章も。
 すべてのプログラムを通してもちろんドールのホルンは素晴らしく上手かったのだけれど、それより「良い音楽を聴いたなあ」という満足感の勝る演奏会だったように思う。


シュテファン・ドール氏




リサイタル終了後にはサイン会を開催 タイミングを合わせて来日していたフィリップ・アレキサンダー社長(右)と、営業担当者のライモンド・パンクラッツ氏(左)とともに


文/撮影:アレキサンダーファン編集部 今泉晃一


↑ ページトップへ戻る


ALEXANDER HORN OWNER'S CLUB (C)アレキサンダーホルンオーナーズクラブ事務局 All Right Reserved.