アレキサンダーファン
2013年12月掲載
第56回 アレキファン的「ホルンの“ホ”」
福川伸陽&三浦友理枝デュオ・リサイタル

 11月29日に横浜みなとみらいホールでリサイタルを開いたばかり福川伸陽氏であるが、残念ながら筆者は所用で聴きに行くことができなかったので、その代わり(?)ここでは7月25日に銀座のヤマハホールで開催された、ピアノの三浦友理枝氏とのデュオ・リサイタルの様子を振り返ってみたい。




 プログラム前半ではCD『ラプソディ・イン・ホルン弐』に収録されている曲を演奏。1曲目の吉松隆《スパイラル・バード組曲》第1楽章で幕を開けた。もともと「ホルンという楽器にとらわれない曲を」ということで委嘱した作品であり、2011年のリサイタル「B→C」での初演も聴いたが、改めて聴いてみるとやはりホルンを超越していた。というよりも、福川氏のホルンが、ホルンという楽器の持つ不自由さをまったく感じさせないのだ。非常に難しいパッセージも、まるで鼻歌でも歌うように聴かせてしまううまさがある。

  続く《さくらさくら》では、CDのジャケットにも写っていた、宮大工に作ってもらった朱塗りの木製ベルを付けたアレキサンダー1103を演奏。アレキサンダーの持つブリリアントさは残しつつもエッジが取れて肌触りの優しい、素朴で太く包み込むようなサウンドであり、福川氏の持つレガートの美しさとも相まって、さらに“楽器を感じさせない”方向に向かった。月並みな感想で申し訳ないが、これはまさに“歌”だと感じる。この後も、《出船》《宵待草》《夕焼け小焼け》といった日本の唱歌は木製ベルの1103で吹いたのだが、その音色と自然なフレージングによって、郷愁をそそられたのだった。

  ただ、やはり特殊なベルであり、福川氏によれば主にベルの厚みによって取付け部に段差ができるため高域の音程の維持なども難しいそうで、彼だからそれこそ歌でも歌うように吹いていたが、誰にでも吹けるようなものではなさそうだ。格別な音色は大きな魅力だが。


  ホルン四重奏とピアノで演奏される《ふるさとの四季》(源田俊一郎編)では、なんとNHK交響楽団のホルンセクション(石山直城/今井仁志/勝俣泰)が登場。CDとはメンバーが変わっていることもあり、非常にレアなカルテットが聴けるとわくわくしていたら、これがまた上手い。やはり同じオーケストラで常に一緒に吹いている人たちはお互いの好みやくせなどを把握しているのであろう。ハーモニーも飛び切り美しく、息もぴったりで、演奏の方向性や流れがそろっているので、聴き手の中にものすごくスムーズに音楽が入って来る。世の中に上手なホルンカルテットは数あるが、これほど「ひとつになった」演奏は初めて聴いたような気がした。


  前半最後は本来オーケストラのための外山雄三作曲《管弦楽のためのラプソディ》を、作曲者自らがホルンとピアノ、打楽器のためにアレンジ。福川氏と三浦氏も打楽器を叩く姿が見られたのは面白かったが、しみじみとした日本の唱歌とは打って変わったこの熱狂はオーケストラそのものの印象で、とても3人による演奏とは思えない。曲によってガラッと表情を変える福川氏のホルンは見事と言うしかない。


  後半はホルンオリジナル曲を3曲。まずはアメリカに住み世界で活躍する作曲家、田中カレンに委嘱した《魔法にかけられた森》を世界初演。鬱蒼とした森の幽玄な雰囲気の中、水の流れのようなピアノに乗って漂うホルン。あるときは森に語りかけ、森の声を聴きながら喜びを歌ったり、またあるときはまさに“魔法にかけられて”何かに魅せられたようにミステリアスに、そして妖艶に歌うホルン。《スパイラル・バード組曲》のようなテクニカルな面は少ないが、何か底にひそむ深みを感じさせられる演奏だった。


  キルヒナー《三つの詩曲》は、ここのところホルンリサイタルで聴く機会が多い。第1曲ではピアノの中にベルを向けて弦を共鳴させたりという演奏効果も印象的だが、それよりも全曲を通しての、激しく感情を高ぶらせたり、深く嘆息したりという振れ幅の大きな演奏に固唾をのんで聴き入ってしまった。


  ラストのラインベルガー《ホルン・ソナタ》はこれまた打って変わって、ロマンティックな曲であり、美しいメロディをたっぷりと聴かせてくれた。ピアノとホルンの間のフレーズのやり取りもハッとするほど見事。そして柔らかく歌うpから高らかに鳴らすffまでのダイナミクスと表現の幅が非常に大きな福川氏のホルン。この日のプログラム全体を振り返ってみても、音楽性の多彩さ、持っている引き出しの多さ、そして最後まで疲れを見せないスタミナには驚かされた。福川伸陽という人には、「次は何をしてくれるのだろう」という期待を抱かざるを得ない。





アンコール1曲目はN響ホルンセクションと同じくN響打楽器奏者の竹島悟史氏による《ずいずいずっころばし》。最後は福川氏&三浦氏でラフマニノフのチェロソナタ第3楽章を演奏した

アンコール1曲目はN響ホルンセクションと同じくN響打楽器奏者の竹島悟史氏による《ずいずいずっころばし》。最後は福川氏&三浦氏でラフマニノフのチェロソナタ第3楽章を演奏した



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