アレキサンダーファン
2011年07月掲載
第49回 アレキファン的「ホルンの“ホ”」
POP CORNE PROJECT 音楽キャラバン隊・福島公演シリーズ

 言葉では言い表せない程の被害をもたらした東日本大震災からの復興を目指し、全世界的に様々な支援や協力活動が行われています。音楽の世界でも例えば被災地出身のアーティストが故郷のためのチャリティーイベントを開催したり、海外から来日されたアーティストが被災地支援のための寄付を募ったりと多くの活動を行っています。クラシックからジャズ・ポップスまで幅広いジャンルで活躍するホルン奏者・東谷慶太さんもそのひとり。指揮者として第一線で活躍される齊藤一郎さんとふたりで福島まで赴き、コンサートやクリニックなどを積極的に行いました。今回は東谷さんの活動をひとりでも多くの方々に知っていただくべく、ご本人にレポートを執筆いただきました。すでに様々な支援活動を考え、実際に行動されている方々も多いと思いますが、東谷さんのレポートが更にこの先を考えるうえでの何かのきっかけになれればと思います。



【POP CORNE PROJECT音楽キャラバン隊発足】

 2011年3月11日、POP CORNES & CERATAULES CONCERT 東京公演を翌日に控え、新宿ドルチェ楽器アーティストサロンで私はリハーサルを行っていた。14時46分突然その時はやって来た。私は休憩中のトイレの中、『揺れているぞ。地震!』慌てて飛び出す。あっという間に、大きな横揺れ、ホールに楽器を出したままだ。その様なことを言っている場合ではなかった。大きな揺れが激しい揺れへと変わっていった。誘導に従い非常階段へ、階段全体が歪んで見えた。まわりの壁が頭上より落ちて来る。『あー、ダメか。』その瞬間、本当に覚悟した。階下に下がるにしたがって壁の崩落は収まり何とか一階までたどり着く事が出来た。数分揺れは続いていたであろうか。あまりの恐怖に暫くホールに戻る事が出来なかった。私が極端に臆病者であるからかもしれない。
翌3月12日のコンサートは幻となった。


 我が家の庭に桜が咲きほころび、春がやって来た。しかし、私の心には春はやって来ない。コンサートの後始末もやっと目処がついて来た。これからどうしたら良いのだろうか。自然の脅威を前にして自分を見失っていた。人間とは本当にちっぽけな存在だと。
私に何が出来るのだろうか。何をすべきなのか。
深町純さんの言葉を思い出した。『君の様な下手な演奏家と一緒に遣るのは初めてだ。いったい何をしたいんだ。わからないんだったら、僕に頼みなさい。曲を書いてあげるから。』 優しい言葉を残して天国へ召された。
私は生きている。音楽家は音楽をする事だ。人は生きている限り前へ向かって生きて行く他ない事に改めて気づかされた。
その日から、被災地でのコンサートを行うべく企業のトップに手紙を書き始めた。ほどなく、ホシザキ電機会長、坂本精志氏から支援の嬉しいメールが届いた。
氏曰く、「人生は思い出を作ることなり」「変化は進歩」 
今までになく大きな力が身体の中から湧き出して来た。
さて、コンサートは誰と行こうか。
ふと頭に浮かんだ。齊藤一郎と言う名前。
6年程前、関西フィル文化庁九州公演で知り合ってからの飲み友達である。とは言え、第一線で活躍する一流の指揮者。ホルンの伴奏ピアノを弾いてくれなんて頼めるのか。
人間とは恐ろしいものである。調子にのって来ると何でも遣ってしまう。意を決して電話をした。ところがあっけないぐらいの快諾。
益々身体中に力が漲って来る。
福島県文化振興事業団にたどり着いた。電話で事情を説明したが、にわかに信じてもらえない様子であった。私と一郎氏のプロフィールを送る。やっと納得してもらえたようである。避難所など現地の調査、調整を行ってもらう事になった。そして、5/22国立磐梯青少年の家、5/23会津アストリアホテル 二カ所のコンサートが決まった。 
POP CORNE PROJECT 音楽キャラバン隊のスタートである。



【第1回福島公演】

 5/21江古田の練習スタジオで一郎氏と再会。ピアノを弾いている姿、この様なシュチュエーションに不思議な感じがした。しかし、リハーサルが始まるとそのような思いは吹き飛ぶ、心地よい流れ、楽曲を通じて発するエネルギー、ピアニストには無い空間、心地よい間合い。そして何よりも、素朴で純粋な人間性を肌で感じた。
G線上のアリア、シューベルト:アベマリア、モーツァルト:アレルヤ、歌の翼、ディズニー:アラジン〜『美女と野獣』、カーペンターズ:青春の輝き、川の流れのように、見上げてごらん夜の星を、天空の城ラピュタより『君をのせて』 リハーサルは進む。
思った通り、いや思った以上のコンビネーション。
リハーサル終了後、一郎氏の車で猪苗代へ移動する。
彼の車については、やはり触れておかない訳には行かないだろう。SUBARUインプレッサ レース仕様。内部はパイプが張り巡らされ、何が起きても全く心配ない、筑波のレース場を走っている車である。


5/22国立磐梯青少年の家

はたして避難されている人たちに受け入れてもらう事は出来るのだろうか。今までに経験した事の無い緊張感の中、コンサートは始まる。不思議な静けさ、しかし、音楽に聴き入っている。一郎氏に指摘されて初めて気がついた。涙ぐんで聴き入ってくれていた事に。
そして最後に、『ふるさと』演奏してしまった。
今、思い出しても恥ずかしさと嫌悪感でいっぱいになる。
この避難所の人たちは、南相馬から避難されていたのだ。
少し心を研ぎすませれば気がついた筈である。彼等にとってあまりにも辛い曲である事に。言葉もそうであるが、音楽も一度発してしまえば消してしまう事が出来ない。曲の順番を替えてはとの意見もあったが、その後は演奏しないでおく事にした。
後の祭りである。
コンサート終了後、一郎氏から提案があった。宿泊しているホテルリステル猪苗代のロビーで演奏してみないかと。ホテルに戻り許可を得てコンサートでは演奏しなかった曲など1時間ほど演奏、徐々に人が集まって来る。私たちが宿泊したホテルも避難所として双葉町の人たちが避難していた。演奏を終え片付けを始めた時、初老の男性が近づいて来る。目に涙を浮かべ『ありがとう。』と手を握ってくれた。本当に来て良かった。熱い物がこみ上げて来る。
その夜、福島の地酒を一郎氏と酌み交わした事は言うまでもない。


 

5/23会津アストリアホテル

猪苗代から車で約2時間の南会津町にある。それにしても、福島は広い。後日聞いた所、南会津郡は神奈川県と同じくらいの面積だそうである。この避難所も南相馬の人たちが避難されている。南相馬から南会津までは、車で4時間以上はかかるのではないだろうか。
二日目のコンサートと言う事もあってリラックスして演奏が出来た。やはり聴いている人たちは、じっくりと音楽に浸っているように感じた。演奏を終えた時、重圧から解放され心地良い疲れを感じた。
東京に戻る車の中、一郎氏の『本当に来て良かった。』という言葉が私の心に沁みた。


 


【第2回福島公演】

 6/10江古田のスタジオでリハーサル。午後、南会津町に移動。
二回目と言う事も有り、見覚えの有る景色の中、3週間ぶりの訪問。今回は、芦ノ牧温泉に二泊。それにしても会津は美しい。


 6/11午前会場でリハーサル、午後から田島中学校のクリニック、一郎氏の本領発揮である。それにしても熱い男だ。中学生に対しても、徐々にヒートアップ、本人曰く、ちょっと遣り過ぎたかな。若さには無限の可能性がある。クリニックが始まり、あっという間にサウンドが変わってしまった。またまた、ハプニング。一郎氏の提案でクリニック終了後にミニコンサート。30分ほどの演奏であったが、想い出に残る楽しいひと時であった。


 

6/12南会津町御蔵入交流文化ホールコンサート

800席の音響の素晴しいホールである。ピアノはベヒシュタイン。初めてこのピアノで演奏したが、こんなに演奏し易いピアノは初めて、ホルンとの溶け込み具合が絶妙である。
南相馬市長と南会津町避難者との懇談会に於けるコンサート。


  • 1. シューベルト:アベマリア 
  • 2. モーツァルト:アレルヤ 
  • 3. サン・サーンス:白鳥 
  • 4. ディズニー『アラジン』より、ア・ホール・ニュー・ワールド?美女と野獣 
  • 5. カーペンターズ:青春の輝き 
  • 6. アントニオ・カルロス・ジョビン:イパネマの娘 
  • 7. 川の流れのように 
  • 8. 見上げてごらん夜の星を 
  • 9. 『天空の城ラピュタ』より、君をのせて 
  • 10. 『魔女の宅急便』より、海の見える街 
  • 11. 『ハウルの動く城』より、人生のメリーゴーランド
  • アンコール. 崖の上のポニョ&となりのトトロ

 

 

 約1時間のコンサート、全力で立ち向った渾身のステージであった。
帰り際に、ありがとうという声をかけられた。熱いものがこみ上げてくる。充実感の中、余韻を噛み締めながら東京へ向かった。
今回、改めて多くの人によって支えられている事を実感した。そして何事も思いついたら始める事、私にとって考えるという事とは行動するという事を意味するのだ。それにしても、大それた事を始めてしまったものである。もう後へは引く事は出来ない。私には前進する事以外の選択が残されていない。
そして、心に誓った。再び福島に戻って来ると。


演奏風景写真
 
演奏風景写真

演奏風景写真
 
演奏風景写真


文・写真提供=東谷 慶太

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