アレキサンダーファン
2009年01月掲載
第35回 アレキファン的「ホルンの“ホ”」
一夜限りの、まさに“特別”な演奏会
アレキサンダーホルンアンサンブルジャパン特別演奏会 with シュテファン・ドール&サラ・ウィリス
2008年11月24日 津田ホール
 まったく、興奮のさめやらぬ一夜だった。アレキサンダーホルン吹きの名手が10人集まると、こんなにも凄い音楽を奏でることができるのだ。そして、ホルンという楽器の表現力の可能性と、ホルンアンサンブルの楽しさを再確認できた演奏会であった。

「アレキサンダー、万歳!!」 リハーサルでのひとこまより
「アレキサンダー、万歳!!」 リハーサルでのひとこまより

 在京オーケストラの現役ホルン奏者から、アレキサンダーを愛する人たちによって結成されたホルンアンサンブルが、"アレキサンダーホルンアンサンブルジャパン(以下、AHEJ)"だ。今回の演奏会ではメンバーの変更があり、上間氏、伴野氏が初参加し、4つのオーケストラから8人によるアンサンブルとなった。しかも"特別演奏会"の特別たる所以は、かのベルリンフィルから2人が参加したこと。1人は首席奏者としてすでに15年もベルリンフィルのホルンセクションを率いるシュテファン・ドール氏。そしてもう1人は紅一点にしてそのパワフルな低音で我々を魅了してくれるサラ・ウィリス氏。

リーダーシップを取りつつも始終和やかな雰囲気を醸していた、シュテファン・ドールとサラ・ウィリス
リーダーシップを取りつつも始終和やかな雰囲気を醸していた、シュテファン・ドールとサラ・ウィリス

 AHEJは1999年の結成以来これまで6回の定期演奏会と4回の特別演奏会を行なってきた。その中には、ベルリンフィルのもう1人の首席、ラデク・バボラーク氏をゲストに迎えた回もあったが、今回はゲストの2人がソロのみならず、アンサンブルにも参加することが大きな話題だった。日独混合のアレキサンダーホルンによるアンサンブルは、いったいどんなサウンドを奏でてくれるのだろうか。


早くもメインディッシュ? 演奏会前半

 2008年11月24日、東京の津田ホール。開場は午後6時半だが、その2時間も前から受付前には列ができていた。ちなみに、その時間はまだリハーサルが続いていた。「こんなに吹いて大丈夫?」というくらい本気の、入念なリハーサルに驚く。しかし、ドイツ勢の2人も交えて、終始和やかな雰囲気なのがホルン吹きらしい。さて開場してみると、まさに空席が見あたらないほどの満席となった。
 500人の聴衆の期待の中、まず1曲目はAHEJの8人による演奏で、ウィギンスの「8本のホルンのための組曲第1番」。国際ホルン協会の終身会員になっているほどのホルン好きな作曲家によるまさにホルンらしい曲。
 時には明るく輝かしく、時には優しく柔らかく、時に分厚いハーモニーを奏でる、アレキサンダートーンを満喫できた。

ウィギンス:8本のホルンのための組曲第1番(1.金子/2.竹村/3.上間/4.伴野/5.久永/6.野見山/7.有馬/8.阿部)
ウィギンス:8本のホルンのための組曲第1番
(1.金子/2.竹村/3.上間/4.伴野/5.久永/6.野見山/7.有馬/8.阿部)

 2曲目はドールとサラ(と今回も呼ばせていただきます)が入ってボザの「4本のホルンのための組曲」。日本勢からは竹村とこれまた紅一点の野見山(以下、敬称を略させていただきます)。東西女性下吹き奏者の共演も注目の的だが、ホルンアンサンブルとして定番曲だけにこの4人がどんな演奏を聴かせてくれるのだろうか。
 結論から言ってしまうと、実に新鮮でありながら、「この演奏が、ボザが望んでいた形ではないだろうか」と思ってしまうくらいの名演だった。サラの揺るぎない低音が全員を支え、ドールが音楽を前へ前へとドライブする。野見山、竹村が彼らと対抗し、時には溶け合い、密度の高いハーモニーを作り出す。
 日独混合のカルテットだからそれほど練習時間を取れなかったであろうが、それが良い意味でスリリングさを生み、テンションの高い演奏につながったのかもしれない。それにしても、1stを吹いたドールは丸く柔らかなサウンドで朗々と歌いながらアンサンブルに溶けつつ、必要な時にすっと抜け出してくる。そのときの"ドール節"には魅了されるが、それよりも、アンサンブル全体に働きかけ、音楽を実に生き生きとしてしまう力にはさすがと唸るしかない。

ボザ:4本のホルンのための組曲(1.ドール/2.竹村/3.野見山/4.ウィリス)
ボザ:4本のホルンのための組曲(1.ドール/2.竹村/3.野見山/4.ウィリス)

 3曲目はAHEJの8人によるワーグナーの楽劇「ラインの黄金」ファンタジー。これまで、AHEJは毎回ワーグナーに取り組んで来た。「ホルンらしいハーモニーが作れるから」というのが理由の1つだが、聴いてみれば納得できる。8番のソロから始まってホルン8本の掛け合いになる冒頭はもちろん、どこを聴いてもホルンのみの演奏に違和感がまったくない。
 長いフレーズで集中力を切らさないのはさすがだが、同時に、「ラインの黄金」のハイライト集ともいうべき編曲に合わせて、シーンごとにぱっと雰囲気が変わるのは、さすがに一流のオーケストラプレーヤーの集団だと思った。

ワーグナー:楽劇「ラインの黄金」ファンタジー(1.久永/2.上間/3.金子/4.伴野/5.有馬/6.野見山/7.竹村/8.阿部)
ワーグナー:楽劇「ラインの黄金」ファンタジー
(1.久永/2.上間/3.金子/4.伴野/5.有馬/6.野見山/7.竹村/8.阿部)


ベルリンフィルの2人のソロで始まった、演奏会後半

 後半は、ベルリンフィルの2人、それぞれがソロを披露。
 ドールはホルン8本用にアレンジされたモーツァルトのホルン協奏曲第4番の終楽章を演奏した。オケマンであると同時に、稀代のソロイストであるドールの本領発揮で、柔らかで力みのない音ながら、バックのホルン7人からはっきりと浮き出してくるソロが見事だった。もちろん、かなり難易度の高い譜面(多分ソロよりも……)ながらソロをしっかりと支えたAHEJもさすがだ。

ドールのソロによる、モーツァルト:ホルン協奏曲第4番第3楽章の、演奏後の様子(1.ドール/2.竹村/3.有馬/4.伴野/5.上間/6.金子/7.久永/8.野見山)
ドールのソロによる、モーツァルト:ホルン協奏曲第4番第3楽章の、演奏後の様子
(1.ドール/2.竹村/3.有馬/4.伴野/5.上間/6.金子/7.久永/8.野見山)

 サラがノイリンクの「低音ホルンとピアノのためのバガテル」を聴かせてくれたのは、今日の聴衆へのプレゼントと言ってもいいかもしれない。下吹きのためのソロというちょっと矛盾する(?)コンセプトのためにめったに演奏される機会がないこの曲を、小林健太郎によるスペシャルアレンジで演奏。
 AHEJは以前にも各パートにソロを振り分けるアレンジでこの「バガテル」を演奏しているが、今回は純然たるサラのソロ。彼女自身も「ベルリンフィルのオーディション以来」という貴重な演奏の機会だったそうだが、サラの骨太ながら柔軟性に富む音色と、103という同じ楽器で吹いているとは思えないパワフルで開放的な低音に、会場は大いに沸いた。

サラのソロで、ノイリンク:「バガテル」(1.ウィリス/2.阿部/3.伴野/4.野見山)
サラのソロで、ノイリンク:「バガテル」
(1.ウィリス/2.阿部/3.伴野/4.野見山)
 
日独女性下吹きホルン奏者の共演も見所のひとつ!
日独女性下吹きホルン奏者の共演も見所のひとつ!

 最後はAHEJとベルリンフィルの2人、総勢10名による「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」。このアレンジはよくある「いいとこ取り」ではなく、オーケストラの曲をまるまるホルンに移したものだから、テクニックとスタミナと、原曲を壊さない音楽性が必要になるのだが、前半少し疲れも見えていたAHEJのメンバーも1st/2ndを吹いたドール/サラと互いに良い影響を与え合いながら、この難曲を見事な集中力で吹き上げた。
 まるで優れたマエストロのようにアンサンブルを引っ張っていくドールのホルンが、本当に音楽を生き生きと聴かせてくれる。譜面は非常に難しいのに、合わせることに加えて、常につま先立ちのファイティングポーズで(もちろん、イメージです!)、音楽を前に進め続ける姿は、まさに世界のトップホルニストであることを再確認させてくれた。

R.シュトラウス:交響詩「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」を熱演、全員で健闘を称え合う(?)(1.ドール/2.ウィリス/3.竹村/4.伴野/5.有馬/6.上間/7.久永/8.野見山/9.金子/10.阿部)
R.シュトラウス:交響詩「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」を熱演、全員で健闘を称え合う(?)
(1.ドール/2.ウィリス/3.竹村/4.伴野/5.有馬/6.上間/7.久永/8.野見山/9.金子/10.阿部)

 と、どうしてもゲスト2人のことが多くなってしまったが、8人という比較的大編成のホルンアンサンブルにもかかわらず各奏者の個性がしっかりと感じられ、それが集まってまた1つの音楽を紡いだAHEJは、使っている楽器という共通点はもちろん、やはり一人一人が素晴らしいホルン奏者だということを見せてくれた。
 しかも、その1つのアンサンブルに、ベルリンフィルの名手2人が加わることでその音楽性は何倍にも膨らんだ。これぞ"アンサンブル"の醍醐味だなあと、終演後にしみじみ考えた。

カーテンコール。でもこの後にまだお楽しみが……
カーテンコール。でもこの後にまだお楽しみが……


サービス!

 聴衆の拍手に応えてアンコール。1曲目は"I'm so lonely"を演奏……のはずが、ドールがいない。「いいや、始めちゃえ」というサラのジェスチャーで曲を開始。前奏が終わりいざメロディになると……客席に登場したドールが切々と歌い上げる、というサービスぶり。

アンコールで、突如客席に現れたドール
アンコールで、突如客席に現れたドール

 2曲目はロッシーニの"La Danza"。ホルンで吹くには無茶としか言いようがない超絶技巧だが、構わず飛ばしていくドールが素敵。でも付いていく皆さんももっと素敵。
 もう1曲? と思っていると、始まったのはなんと「ティル」。まさかあれをもう一度……と思っているとあっという間に終わる超ショートバージョン。最後は皆で笑ってお開きでした。

最後に、サラの姿をもう一度……(個人的趣味ですみません!)
最後に、サラの姿をもう一度……(個人的趣味ですみません!)

文=「アレキサンダーファン」編集部 今泉晃一


アレキサンダーホルンアンサンブルジャパン
アレキサンダーホルンアンサンブルジャパン 阿部 雅人(新日本フィルハーモニー交響楽団)
有馬 純晴(東京都交響楽団)
上間 善之(東京交響楽団)
金子 典樹(新日本フィルハーモニー交響楽団)
竹村 淳司(東京交響楽団)
伴野 涼介(読売日本交響楽団)
野見山 和子(東京都交響楽団)
久永 重明(読売日本交響楽団)



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