アレキサンダーファン
2017年11月掲載
ホルンなんでも盤版Bang! ~ライブラリー~ 「ホルンなんでも盤版Bang!」
ホルン関係のCD・楽譜情報を発信していきます!!


このコーナーでは、ホルンに関するディスクをご紹介いたします。
みんな知っている超定盤、「こんなのあったのか」という珍盤など、ホルンが活躍するものなら何でも。その中から今回はこの2枚です。
ここでご紹介する盤は基本的には筆者のライブラリーですので、当サイトへの、入手方法などに関するお問い合わせはご遠慮くださるよう、お願い申し上げます。


盤版Bang!ライブラリー045

Le Lien
豊田実加(ホルン)、大野真由子(ピアノ)
Le Lien
1. バレイ:シャンソン・ドゥ・フォレスティエ
2~5. バルボトゥ:セゾン
6~8.

ケクラン:ホルン・ソナタ Op.70

9. プラネル:カプリース
10~15. イベール(大橋晃一 編曲):《物語》より
第2曲 小さな白いろば
第4曲 おてんば娘
第6曲 廃墟の宮殿
第7曲 机の下で
第8曲 水晶の籠
第10曲 バルキス女王の行列
フォンテック FOCD9755

▼神奈川フィルハーモニー管弦楽団首席ホルン奏者にしてホルンアンサンブルVENUSの一員であり、もちろんアレキサンダー103を愛用する豊田実加さんのファースト・ソロアルバムである。タイトルの“Le Lien(ル・リアン)”はフランス語で「縁」「絆」を意味する。プログラムもフランスもので統一されているが、どれもあまり耳にする機会の少ない(しかしどれも素敵な)曲ばかりだ。
▼ギヨーム・バレイの《シャンソン・ドゥ・フォレスティエ》は「森人の歌」というような意味。森の中で合図を交わすようなフレーズで始まり、素朴な、それでいてどこか哀愁を感じさせるゆったりとしたメロディを、飾らずに朗々と歌い上げる。森の奥深さにもつながる距離感を感じさせる表現が見事。
▼自身が著名なホルン奏者であり(パリ管の最初の首席奏者)、教育者であったジョルジュ・バルボトゥ作曲の《セゾン(四季)》。第1曲〈秋〉では収穫の喜びから冬への予感へという変化が、続く〈冬〉の静謐さ、〈春〉の自然の呼び声と喜び、そして〈夏〉の(ダンスとは言えども)どこか気だるげな雰囲気と、情緒豊かに表現される。
▼シャルル・ケクランは主に20世紀前半に活躍した作曲家で、《ホルン・ソナタ》は1925年完成とのこと。テンポの速い、遅いに関わらず全体が淡いグラデーションによって描かれているような印象で、しかしその繊細な変化をきっちりと捉えて表現しているのはさすがだ。
▼ジャック・イベール作曲《物語》は、もともとは10曲から成るピアノのための小品であり、可愛らしい(しかし決して単純ではない)曲調の中にエキゾティズムが描かれている。今回はホルン奏者(神奈川フィルの先輩)でもある大橋晃一氏によってホルンとピアノに編曲され、6曲が抜粋されている。豊田実加さんはまだ若いが、むしろ昔を振り返るような視点で、若い頃体験した異国での新鮮な驚きを、懐かしく思い出しながら表現しているかのようにも感じられた。もちろん演奏は繊細にして伸びやかであり、曲の愛らしさとも相まってホルンのレパートリーとして非常に魅力的に思えた。
▼豊田さんの演奏はいたずらに華やかにせず、開放的に吹き切ることも少ないし、極端なダイナミクスや歌い回しも用いていない。もちろんモノトーンからは程遠い彩りやバリエーションがあって、単調になるようなことは決してないし、聴いていて楽しいのは間違いない。それでも、このアルバムは全体に、穏やかで明るい曇り空を思わせるような淡い雰囲気が漂っているような気がする(もちろん選曲から受ける印象もあるのだが)。それは決して悪い意味ではない。曲から受け取ったイメージによって自分の中に浮かんだ感情を、ただそのまま表現するだけでなく、熟成を重ねて、淡いグラデーションの中で微妙な変化を表現しているのではないだろうか。



盤版Bang!ライブラリー046

FRANZ & RICHARD STRAUSS Horn Concertos
ザムエル・ザイデンベルク(ホルン)、セバスティアン・ヴァイグレ指揮hr交響楽団[フランクフルト放送交響楽団]
FRANZ & RICHARD STRAUSS Horn Concertos
1~3. F.シュトラウス:ホルン協奏曲
4~6. R.シュトラウス:ホルン協奏曲第1番
7~9. R.シュトラウス:ホルン協奏曲第2番
PAN CLASSICS PC10312

▼ザムエル・ザイデンベルクは1978年、ドイツ北東部にあるオスターブルク(アルトマルク地方)に生まれ、13歳から19歳までベルリンの音楽学校にてクルト・パルム、クリスティアン・フリードリヒ・ダルマンの元で学んだ。1998年からはベルリン・ドイツ交響楽団、ミュンヘン・フィル、バンベルク交響楽団などでソロホルン奏者を務め、2006年以降はhr交響楽団(旧フランクフルト放送交響楽団)のソロホルン奏者として活躍している。このCDの録音はリヒャルト・シュトラウスが2011年、フランツ・シュトラウスが2013年。バックは自分のホームグラウンドのhr交響楽団であり、指揮は地元フランクフルト歌劇場の音楽監督、セバスティアン・ヴァイグレ。
▼フランツ・シュトラウスのホルン協奏曲は息子リヒャルトに比べるとより古典的でロマンティックであり、装飾的な作り方だ。それだけに、ザイデンベルクのホルンもバックのオーケストラも感情をストレートに出してめいっぱい歌っている印象。ソロにもかなり速いパッセージで音域の下から上まで駆け上ったり、駆け降りたりするような部分もあるが、そこを決して強調せず、あくまで旋律のフレーズの中で軽く処理して聴かせているから、この曲のロマンティシズムあふれるメロディにのめり込むことができるのだ。
▼ライナーにある写真を見る限り、使っているのはアレキサンダー103。などとわざわざ断らなくても、伸びやかで変幻自在の音を聴けば納得するだろう。ひとつのフレーズの中でも、内に込めた感情をひそやかに語る部分からそれが抑えきれなくなって溢れ出すというような表現の変化が手に取るようにわかる。それはまさしく歌なのだが、同時にホルンの魅力を存分に聴かせてくれるものだ。すべてについて言えることだが、ザイデンベルクのホルンは「楽器の都合」を一切感じさず、自分が吹きたいと思った通りに音が出ている印象があり、彼の技術の高さを思わせる(が、それをことさらひけらかすつもりはなさそうだ)。
▼おなじみリヒャルト・シュトラウスのホルン協奏曲第1番でももちろんそれは同じで、個人的にはソロ冒頭のB♭→B♭の跳躍だけでハッとさせられた。下の音で豊かに歌ってから軽やかに上の音に飛ぶ様が絶妙なのだ。ザイデンベルクの演奏は常に変化し続けていて、第1楽章のシンプルなメロディでも力の抜きどころ、入れどころを心得ることによって音楽に方向性を与えている。もちろんテンポが前に行くところや微妙にためるところなども、大げさにならないながら効果的に聴き手の気持ちを揺らす。終楽章のおおらかなレガートのメロディでも、どこか気持ちを抑え込んで憂いを湛えたように歌い、そこからファンファーレのように華やかな第1主題に一気に変化する様は、聴いていてカタルシスさえ感じた。
▼R.シュトラウスの協奏曲第2番は技術的にも非常に難曲だが、やはりそういうことを一切感じさせず、すべてをなめらかで情緒的なメロディとして歌い上げている。譜面にないダイナミクスの変化、特に弱音を効果的に使っていて、それと対比されるフォルテ時の力強さと、アレキサンダー特有の輝かしい音色が魅力度を何倍にも増している。ということで非常に聴き手の心に刺さる演奏なのだが、特にこの曲はオーケストラの役割も大きいため、普段から一緒に演奏している仲間たちとの有機的なアンサンブルが、それに一層拍車をかけているように思った。


アレキサンダーファン編集部:今泉晃一



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